桜の季節になると思い出すことがある。
雪のように舞いながらも、触れても消えることがない淡く色づいた吹雪の中
わんわんと千秋が泣いている。
その光景が酷く重く
このまま花弁と一緒に溶けて消えてしまいたい。
幼心に、そのように感じていた。
なんで泣いてるん?
幼い自分の声は冷たく、自分より小さい千秋は体をビクリとさせる。
いつもみたいに横柄な態度でいてくれればいいのに。
彼は泣きながらも自分の言葉を必死で拾い集める。
そんな千秋見とうないわ……
俺の言葉に彼は少なからずショックを受けたらしく、涙は止まっていた。
「やっぱり知っていたのか?」
何がなのか皆目見当がつかないので、ん?と首を傾げて次の言葉を促す。
「お前の病気が俺のせいだったってこと……」
予想外の言葉に目を見開く。
……一体千秋は何を言っているのだろうか。
※ ※ ※
部室へと向かう途中、校内の桜並木が目に入った。
毎年春休みに満開を迎えているので、在学中に見るのはこれで最後だ。
「寂しいもんやなぁ」
はらりと舞う花をみて呟けば千秋が不思議そうな表情をしていた。
「ああいう花はお前が好む種類だろ?」
「そういう意味やないよ」
花そのものに哀愁を感じているわけではない。
「ただ、今年で終わるんが、な」
十年以上付き合っているのだから学校が違うだけで切れるほどのヤワな縁だとは思いたくない。
だが、それは自分が望んでいる関係でもある。
「一期一会てええ言葉やね」
千秋も長い付き合いで、俺が望む人付き合いを理解している。
だからか、俺の言葉に否定もせず、頷きもしなかった。
ただ舞い散る花びらが、散るために焦っているようにも見えて。
――それが寂しかったのかもしれない。
「よし、なら花見に行くか」
部活が終わってからだがな、と付け加えて千秋は笑う。
こうなったらどんなに言ってももう無駄なことは分かっているから
「しゃあないなぁ」
と肩をすくめて同意した。
※ ※ ※
その日の俺は久しぶりの学校を楽しみにしていた。
それなのに仲のいい元後輩は、俺の姿を見るなり泣き出していた。
「千秋のせい?」
先ほどの言葉の意味が分からず千秋に同じ言葉を返す。
「それが本当なら笑われへんのやけど」
笑おうとするが、感情を上手いこと制御することが出来ない。
「せや、蓬生が倒れたきいて、俺のせいやって」
千秋も必死で説明をしようとする。
だが、具体的な説明は一切出てこない。
普段はキレイだと思うのに、今は目の前をちらつく花弁が鬱陶しい。
「アカンわ」
俺の一言ですべての音色が消えたような気がした。
- 作品名
- 思い出1
- 登録日時
- 2010/04/04(日) 21:06
- 分類
- 未分類