いつだって人は彼を中心に動いている。
分かりきっていることだが、そんな彼だから自分も彼から離れられない。
以前そのことを伝えたら
「バーカ、当たり前だろ?」
といわれたので、もうあえて口にすることはしない。
千秋の側に自分がいて、自分のそばに千秋がいる。
それだけで十分幸せだった。
頬に触れる感触で目が覚める。
首だけ動かせば、千秋の姿が目に入る。
行為の最中とはまた違う、彼の甘えている表情。
俺しか知らない千秋。
「起こしたか?」
悪いとも言わない彼に、ええんよ、とだけ返す。
「怖い夢見たわ」
「夢?」
そ、と言って彼の目を見る。
「千秋がな、遠くに行ってしまうんよ」
「人を勝手に殺すな」
「そうやないよ」
遠く。
自分の手の届かない場所。
人に囲まれ、隣にあったはずの自分の居場所もが無くなっている。
夢の中の千秋には触れることが出来なかった。
手をのばして短い髪に触れる。
今は体温に触れるのが怖い。
だが、千秋は俺の心を知ってか知らずか指を絡ませる。
ドキリとし、手を離そうとしたがそれも不自然な気がしてそのままにする。
きっと千秋は気付いている。
「それはお前が望んでいたのか?」
いつか、千秋が高校なんてつまらない枠から自由になった時。
自分は身を引くだろう。
そして思い出だけを大切にして、遠くから彼を見守ることを選ぶ。
手に入らないものに焦がれるのも、入ったところで彼が幸せになれないと分かっているのも辛い。
千秋には幸せになってほしい。
……そのためには俺さえいなくなればいいんや。
「蓬生、俺を侮るなよ」
指の力が強くなる。
「お前が何を不安に思っているか分からないが、お前の居場所はここ……俺の隣だ」
そのまま顔が近づき、唇が触れそうになる直前で止まる。
「そんな顔をするな」
今、自分はどんな顔をしているんだろう。
ただ、確証が持てない未来も千秋が言うんなら本当になりそうな。
そんな淡い夢を抱いてしまう。
「ずっと一緒や、蓬生」
瞳を閉じる千秋に引き寄せられるようにキスをする。
そう。
彼はいつだって中心にいて、人を引き付ける。
まるで太陽みたいな存在。
自分にはあまりに眩しすぎて
それでも離れられなくて
触れている感覚だけを大切にしたくて瞳を閉じた。
- 作品名
- 君が眩しくて
- 登録日時
- 2010/06/23(水) 00:38
- 分類
- 土岐×東金