朝は晴れていたのに、昼過ぎから曇ってきていた。
そして下校時刻になった今、雨が降ってきた。
昇降口で溜息を吐いて空を見るが、雨はやみそうにもない。
「あれ?亜貴ちゃんどうしたの?」
廊下の方から聞きなれた声に反応する。
声を聞くだけで嬉しくなるなんて我ながら重症だと思う。
「葛ちゃん」
「もしかして傘忘れちゃったの?」
葛ちゃんの手には折りたたみの傘。
予想では晴れだったのに葛ちゃんが持っているなんて珍しいこともあるんだな。
もしかしてだから今雨が降ってるのかも。
「ねえ亜貴ちゃん、今すっごく失礼なこと考えてない?」
「えっいや!そんなことないよ!!」
苦笑いをする葛ちゃんに私は勢いよく否定する。
「どうせ亜貴ちゃんもこの傘はノリちゃんのだって思ってるんでしょ」
「え?乃凪先輩の?」
なんでここで乃凪先輩が?
あ、でも確かに乃凪先輩なら傘を置いてそうだな。
「ほら今ノリちゃんのなら納得って顔をした!」
「え、いや、別に……」
ゴメン葛ちゃん。
確かに納得しちゃったよ。
「まあ本当にノリちゃんのだからいいけど」
ボソッと葛ちゃんが何かを言う。
「え?」
乃凪先輩の名前が聞こえた気がして聞き返してみても「なんでもないよ☆」とごまかされる。
なんか聞いちゃいけないことのような気がしたけど。
「それより亜貴ちゃん、傘は?」
わざとらしく話題を変えられる。
どうも腑に落ちないけれど、とりあえず話に乗る
「降るとは思わなくて忘れちゃったんだ」
先ほどから昇降口には帰れずに困っている人が何人もいる。
私もその一人で、図書館か教室に行こうか考えていたところだった。
「……じゃあ、一緒に帰ろうか」
「え?」
葛ちゃんの手には一本の折りたたみ傘。
つまり相合傘をして帰ろうということだ。
「……いい、の?」
「もっちろん」
多分それは従兄妹だからっていうだけなんだろうけど。
それでも快諾してくれるのは嬉しい。
「ちょっと待ってて、今靴持ってくるから」
三年の下駄箱へ葛ちゃんは走っていく。
と、見送る視線の中にとある人物がいた。
ほわっとした印象のかわいらしい人。
今も外を見て、困った顔をしている。
さっきまでの私と同じ状況。
もし葛ちゃんが一年生側から歩いてこなかったら……
「お待たせー」
元気のいい声に意識が戻る。
「ん?亜貴ちゃんどうかした?」
と、私がさっきまで見ていた方向をみようとする。
見ないで、と思うけれど時は既に遅く。
小さく、本当に小さく、溜息を吐いた。
「西村、おっ先ー!」
「え、あ、内沼先輩。さようならー」
さっきの溜息が幻聴だったのかと思うくらい元気よく彼女に向かって手を振る。
そして、私に振り返って
「じゃあ亜貴ちゃん、行こうか」
優しい声で言う。
これじゃあ私のこと好きなんじゃないかって勘違いしちゃうよ。
「いいの?」
申し訳なさそうに聞くと、葛ちゃんは寂しそうな顔をする。
「西村には王子様がいるからね。認めたくないけど」
認めたくない。
やっぱり好きなんだ。
「なんで西村はあんなヤツがいいのか本当に分からないよ」
傘を開きながらブツブツ文句を言う。
「亜貴ちゃんはまともな男を捕まえなきゃ駄目だよ?」
「まともって」
「例えば俺みたいな☆」
小さい傘に寄り添いながら、二人で歩く。
「うん、そうだね」
本当に葛ちゃんと恋人になれたらいいのに。
「……大丈夫、亜貴ちゃん?」
顔を覗き込まれる。
「だ、だいじょ」
「きゃああああああああああ」
「わはははははははははははは」
今、何かが真横を過ぎ去っていった。
すごく見覚えのある何かが過ぎていった。
「えっと……」
横の葛ちゃんを見れば、呆れている表情になっていて
「ネ?」
と。
「亜貴ちゃんはああいう変人には捕まっちゃ駄目だよ?」
「はぁ……」
変人度合いで言ったら沢登先輩も葛ちゃんも同じくらいだとは言えない。
「あ、でもノリちゃんみたいに将来悩むことになる人も考えた方がいいよ」
「悩む?」
「主に頭皮の問題で」
と、その言葉でさっきの聞き逃しかけた言葉を思い出す。
「葛ちゃん、もしかしてこの傘って乃凪先輩のじゃ……」
「ノリちゃんは亜貴ちゃんのためなら酸性雨とだって戦う男だよ」
それってやっぱり……
「まあ既に負けてるようなものだけど」
「葛ちゃん」
「いいのいいの。亜貴ちゃんのためなら許してくれるよ」
「そういう問題じゃないと思うんだけど」
ごめんなさい、乃凪先輩。
でもこうやって葛ちゃんと一緒に帰れるのは嬉しいと、つい思ってしまう。
「葛ちゃん」
またこうやって帰れればいいな、と
「今度、ちゃんと置き傘置くようにするから」
すると葛ちゃんは私の意図を分かったのか
「じゃあ次に雨が降ったら今度は亜貴ちゃんの傘で相合傘しようね」
なんて。
また私が期待をしてしまうことを言うんだ。
- 作品名
- rainy day~葛~(パニックパレット葛←亜貴)
- 登録日時
- 2010/06/21(月) 22:31
- 分類
- 他ジャンル