叶わない恋だと諦めていた。
それなのに、俺の心を知ってか知らずか。
「芹沢、キスさせろ」
不意に唇を奪われた。
「何をするんですか」
慌てて体を離すが、手首は部長に掴まれたまま。
なんとか冷静になろうと努めるが、こちらに構わず近づいてくる彼を見ると冷静になれるわけがない。
「したいからしただけだ」
文句でもあるのか?と当然のように言う。
あるに決まっているだろう。
「俺じゃなくて副部長にでもしていてください」
彼には、俺よりももっと近くに居る人物がいる。
だからこそ俺は身を引いて、諦めて、ただ見ていればよかったのだ。
「お前だからしたかった」
悪いか?と。
二度目の当たり前だ、と言いたくなる言葉。
この人の考えていることは本当に分からない。
「芹沢」
名前を呼ばれ、外していた視線を彼に戻す。
すると、二度目のキスをされる。
さっきはただ触れるだけだったが、今度は舌で下唇をなぞられる。
また身を引こうとするが、頭を左手で押さえられている。
「なっ」
何を、と言おうとしたが言葉は最後まで形を成さず、三度目のキスをされた。
自分の口腔に彼の舌が侵入する。
彼の人間性と同じで、自分はここにいるのだと主張をしているようだ。
そんなことをしなくても俺の心に貴方はいるのに。
「部長」
唇が離れ、彼へ呼びかける。
「……やっとこっちを見たな」
ニヤリと笑った彼に疑問を抱くまもなく、手首を引かれる。
バランスを崩した俺は部長に覆いかぶさるような形になる。
この人は俺を煽って何をしたいんだ。
「蓬生越しにしか俺を見ようとしていねえお前に教えてやる」
副部長越し、に?
俺がいつも見ていたのは、認めたくないが、部長なのに何を言っているんだ。
「俺はお前を愛しいと思っている」
「は……?」
「本当はお前を抱きたいが、抱かれる側で我慢してやる」
思わず右手を彼の額に当てる。
……熱はないらしい。
「失礼なヤツだな」
だってこんなことはあるはずがない。
「お前は俺のことをどう想っている?」
それなのに、部長の目は真剣で
「好き、です」
悔しいけれど、一生口にすることがないと誓っていた言葉を溢してしまった。
自分の言葉を隠すように、彼へ口付ける。
恥ずかしさからの行為だったが、不思議と幸せを感じていた。
- 作品名
- フィルター(芹沢×東金)
- 登録日時
- 2010/06/12(土) 23:09
- 分類
- その他CP