「珍しいもん食うてるんやな」
菩提樹寮に帰ってきた蓬生の目に入ってきたのは、懐かしい形のアイスを口にしている千秋。
「ユキからもらったんだ」
そう言いながら、千秋はアイスの先端を歯で噛む。
時間の経過と共に噛む位置が変わり、終いには口の根元まで噛んでいた。
手にも力が入っているが、アイスの形は変わらない。
「アイツの好物だって言うから食ってるんだが、どうもこうちまちましたものは性に合わんな」
千秋が食べているのは、たまごアイス。
ユキこと八木沢の好物である。
「千秋はそれ食べるの初めてなん?」
蓬生の質問にああ、とだけ簡単に答える。
どうやらアイスに集中しているらしい。
「そんな食べ方やなくてもっと色気ある食べ方出来んの?」
「色気?」
そう言って、千秋はアイスから口を離す。
だがアイスは止まらずそのまま溢れ出しそうになり、千秋は慌ててそれを舌で掬う。
「そ」
千秋に近づき、千秋の手からアイスを取る。
だが、アイスの先端は千秋が咥えたまま。
「さっきみたいに舌を使うて、とか」
「馬鹿か」
千秋は蓬生からアイスを取り返そうとするが、蓬生は離そうとしない。
「ええやん、そういう千秋かわええし」
「アホ」
蓬生の手をアイスから引き剥がし、自分の両手でしっかりと持つ。
そして、またアイスを歯で噛みはじめる。
「なんか色気があるんかないんか、もう分からんわ」
今度口でやる時歯を立てんといてな、と蓬生が口にすると千秋はむせた。
だが、やはりアイスは千秋の状態などおかまいなしに出続ける。
「アホなこと言うな」
零れそうになるアイスを舐めれば、愉快そうに笑う蓬生が目に入りそれも気に食わない。
ふと、視線が千秋ではなくアイスの方へ向いていることに気付く。
しかも時間の経過と共に面白いことを隠しきれないような、そんな表情だった。
「お前何か企んで」
と言った瞬間、口の中に異変が起こった。
残りのアイスが一気に千秋の口腔へ流れ込む。
しかも先端ではなく奥まで噛んでいたせいもあり千秋は咳き込んだ。
だが、それでもわずかに口に残った分をゴクリと飲み込む。
口端から零れるアイスを指で拭き取ろうとすると、蓬生の舌がそれより先に白い跡をなぞる。
「お前、知ってたな」
笑いを堪えきれずにいる蓬生を睨みつけるが、蓬生自身はさして気にしていない。
「これは初めて食べる人の洗礼みたいなもんやろ?」
カラカラと笑う彼を見て、千秋は舌打ちをする。
「じゃあお前も食べてみろ」
そのままキスをしようとする蓬生の額を手で押しのけながら、冷凍庫の方角を首で指す。
だがその手も蓬生に取られ、結局千秋の自由はなくなる。
「別にええよ」
しかし「でもその前に千秋食べてええ?」という交換条件が出されたのだった。
- 作品名
- ユキの好物(土岐×東金)
- 登録日時
- 2010/05/27(木) 01:03
- 分類
- 土岐×東金