彼の頬に手を添えると、ビクリと身構えられてしまう。
「冥加」
名前を呼べば、その緊張は少しだけ解れる。
それでもまだ戸惑いながら彼は目を閉じる。
これから先のことが分かっている、という意思表示であるその様子に思わず笑いがこぼれる。
ならその期待に応えない訳にはいかない。
自分より一回り大きい体をしていながら、どこまでも純粋な乙女だな、と思いながら唇を重ねる。
だがお互いに、この行為の間にはなんの感情もないことは分かっている。
ただの慰め合いでしかない。
舌を絡め合ってお互いを深く求めていながら、心では何も考えていない。
それが僕らなんだ。
口を離した後も、触れるだけのキスをする。
「練習、しなくていいのか?」
だが冥加の言葉で現実に引き戻される。
「こっちの練習じゃ駄目かい?」
こっち、というのは行為の続きのことだ。
だが、僕の言葉に冥加の表情は険しくなる。
冗談でもやめろ、とでも言いたいのだろうがそれこそ今更だろうに。
「お前はあの人に似ているな」
「それこそ酷い冗談だね。僕が先生のようになれているのなら……」
――今、ここにいない。
自分の中の黒い感情が流れ込む。
「天宮、顔色が……」
「なんでもないよ」
彼は自分から奪った。何もかもを。
それなのに、なんで……
「なんで、君の側を選んだろうね……」
不思議そうな顔をする冥加の目を手で隠しキスをする。
そうだ。
今更、だ。
自分は彼の側を選んだ。
「僕は君のパーツだ。君の、一部だ。それでいいでしょ?」
一部でもいい。先生が選んだ君になりたかった。
- 作品名
- 部品
- 登録日時
- 2010/04/25(日) 18:23
- 分類
- 天宮×冥加