千秋の部屋で寛いでいると、けたたましい音が鳴り響く。
何度も聞いている音ではあるのだが、蓬生には気になってしまう。
「もしもし俺だ」
ああ、と何度か相槌を打ってから千秋は携帯電話を閉じる。
「千秋はずっとその着メロ使うてるんやね」
「そうか?」
たしかに言われてみれば最近はずっと同じ曲だった。
気に入ってはいるが、そこまで気にするほどでもないだろうと思っていた千秋は蓬生が気にする理由が分からない。
「何か気に障るようなことがあったか?」
「いや、千秋らしい曲やね」
華やかな曲は確かに彼らしいとも言える。
静かな部屋にいきなり響かれるのは心臓に悪いのだが、気に入っているのならいいだろう、と気にしないことにした。
だが、ちょっとした悪戯心が芽生える。
またそれぞれが寛ぎ始め、千秋の関心も携帯電話から離れていた。
今や、と思い蓬生は自分の携帯の発信ボタンを押した。
「……ん?」
だが部屋に響いた音楽は先ほどの音楽とは違う。
2つのヴァイオリンのための協奏曲の第一楽章。
蓬生の得意としている曲。
「何がしたいんだ、お前は……」
鳴っている携帯を確認もせずに、千秋は蓬生を睨む。
つまり、蓬生が鳴らしていることは分かっている、ということだ。
「それより何なん?コレ……」
「それよりも何がしたいのか説明をしろ」
千秋の言葉に、蓬生は「ふぅ」とため息を吐いて説明をする。
「あんだけの大音量がいきなり響いたら、千秋も驚くか試してみたかったんよ」
「バカか」
蓬生は、自分の携帯を切り千秋に尋ねる。
「で、千秋はなんであの音楽じゃないん?」
蓬生の質問に、千秋は言い難そうにしながらも呟いた。
「お前の着信は多いから、分かりやすく変えてみただけだ」
その回答に、蓬生はふぅんと面白そうに千秋をじっと見る。
「つまり俺からの着信だって分かるようになってるんよね?」
「……ああ」
「他に誰かそういうの設定してるん?」
「いや、お前だけだ」
「へぇ……」
確かにその通りなのだが、いざ改めて本人に言われると気恥ずかしいものがある。
千秋は「もういいだろ」と話を切り上げようとする。
「なら今度からモーニングコールしてあげよか?」
という蓬生の魅力的な提案に、千秋は「アホ」とだけ返した。
- 作品名
- 君だけの
- 登録日時
- 2010/04/22(木) 21:09
- 分類
- 土岐×東金