何度言っても聞こうとしない。
こうなったらお互いの粘りあいでしかない。
「千秋、いい加減にしろ」
「ユキこそ、たったそれぐらいで騒ぐな」
口論の発端は、テーブルの上にある納豆。
「そんなに言うのならユキが食べればいいだろう」
「千秋が食べないと意味がないだろ」
はぁ、と何度目か分からないため息をつく。
いくら嫌いだからといって、こうやって毎朝残すのはいかがなものだろうか。
食料を大切にしない幼馴染に頭が痛くなる。
と、キッチンの方に人影を見つけた。
「あ、土岐君。いいところに」
僕の声に土岐君は気付いてこちらへと来る。
「二人でなにやっとるん?」
聞いてから、テーブルの上の物に気付き不敵に笑った。
「なんや、面白いことやってるんやね」
「全くもって面白くねえ」
で、俺は何をすればええの?とこちらが声をかける前から土岐君に振られる。
僕はたまたま近くにあったタオルを彼に手渡す。
何をすればいいのか分かった彼はタオルを使って、千秋の視界を塞ぐ。
「蓬生、何をするんだ!」
暴れそうになる千秋の手を土岐君が掴み、後ろ手で固定する。
「これでええの?」
「ありがとう」
そして、テーブルの上の納豆を取る。
カチャカチャと箸が器に当たる音がするたびに千秋は首を横に振る。
「お、おいユキ。やめろ……」
「じゃあ味が分からんように鼻摘んどいたるわ」
言葉通りに土岐君が千秋の鼻を摘む。
鼻が摘まれている、ということは顔が固定されたということだ。
「はい、千秋」
あーんとわざとらしくやってみれば、口に何とか入れは出来たものの千秋は暴れだし
「お前らええ加減にせえよ!!」
と言い放って、洗面台にかけこんでいった。
「部長、それ一番子供が食べ物嫌いになるパターンっスよ」
「えっそうなのかい?」
相談した火積の言葉で、初めて自分が間違っていることに気付く。
悪いことをしたな、と反省をする。
あとで千秋に謝らないとな……
手製の和菓子だけで許してもらえるだろうか、なんて考えることも虫が良すぎるだろうか……
でも正しい嫌いな食べ物を食べさせる方法も聞いた。
よし、明日また実践してみよう。
- 作品名
- 710
- 登録日時
- 2010/04/19(月) 00:55
- 分類
- 八木沢×東金