じと目、と言えばいいのだろうか。
冥加は何も言わずこちらを睨んでいる。
「どうかした?」
ピアノを弾く手を止め、彼に声をかける。
彼はこちらが手を止めると近づいてくる。
静かな部屋に冥加の靴音だけが響く。
「天宮、何か楽しいことでもあったのか?」
楽しいこと?
きっと小日向さんとのことを指しているのだろう。
そうでもなければ彼はこんなに僕を見ることはない。
「そうだね。明日デートに行くよ」
実験の一環で彼女とデートに行く約束をした。
もしかして、彼はそのことを知っていて?
「ひょっとしてヤキモチ?」
冥加が?と思わず笑ってしまう。
だが当の本人は不機嫌を全面に出して笑っている場合ではない。
「どうして気付いたの?」
笑うのを止め、純粋に気になったことを聞く。
彼女との約束は練習スタジオでしたから彼は知るはずがない。
……小日向さんが言いふらしていなければ、という条件だが。
冥加は僕の質問に口を固く閉ざす。
だが、デートに行くということに対する非難の視線はそのままだ。
あまりにもこちらを見続けているので、思わず茶化したくなる。
「冥加、そんなに見つめてたらチューするよ?」
わざと唇に指を当てて言う。
「なっ……」
その指で彼の下唇をなぞり、先ほどの質問の答えを促す。
観念したかのように、冥加はポツポツと漏らす。
「お前の音がいつもより陽気だったからだ」
「……そう?」
まさか自分がそのようになっているなんて思いもしなかった。
だが、冥加が言うなら本当なのだろう。
実験の効果は確かだったことを確認でき嬉しくなる。
と、もう一つの実験を思いついた。
「ねえ」
もう一度指を彼の唇に当てる。
「じゃあ冥加はいつなら時間空いてる?」
デートをしよう、と。
「なんだそれは」
「小日向さんとのデートで陽気になるんだったら、冥加とのデートだとどのような曲調になるのかを試してみたいんだ」
実験の趣旨を説明するが、冥加は理解できないという表情でこちらをみる。
「理解しなくていいよ」
これはあくまでも僕の実験。
君との約束を心待ちにする僕はどんな音色を奏でるのか。
「君が選ばないのなら僕が指定するよ」
指定する時間は、明日の夜の十時。小日向さんと別れた後。
場所はマンションのエントランスホール。
「行き先は、僕の部屋」
次々に出る僕の提案に、彼は呆然としている。
呆然と、僕を見ている。
そんな彼に僕はキスをした。
「言ったでしょ?そんなに見てるとキスするって」
明日の約束楽しみにしてるよ、と耳元で囁く。
文句を言いたそうにしている冥加を無視し、僕は練習を再開する。
――ねえ、今の僕の音はどんな音?
※ ※ ※
お題セリフ「そんなに見つめてたらチューするよ?」
- 作品名
- スイート・リップ・スーパーノヴァ
- 登録日時
- 2010/04/13(火) 01:20
- 分類
- 未分類