「蓬生はどうしたいん?」
母親の質問は子供にとって重過ぎる内容だった。
それでも自分で選ぶしかない。
まあ、勝手に選ばれてしまうよりよっぽどいい。
「なら……」
だから俺は選んだ。
体調が回復してすぐ、ある問題が我が家で上がった。
出席日数が足りない。
健康になったのだから他には何も代えられない、と留年することも別にたいした問題ではないと思っていた。
だからそのこと自体は問題ではない。
問題だったのは義務教育期間中である小学校では
『留年するか進級するかを選べる』
ということだ。
俺からすれば、それも大した問題ではなかった。
どっちになってもそれなりに過ごす。
どっちになっても大差ない。
最初から休みがちだったのだから、クラスメイトとの深い友情というものもない。
もらった千羽鶴にも初めて聞く名前の人のものもあった。
だからどっちでもよかった。
「蓬生はどうしたいん?」
どうしたいのか、と聞かれ考える。
どっちでも変わらない。
「なら」
このままで、と言おうとした瞬間に彼の姿が脳裏をよぎった。
留年を選べば、彼と同じ学年。
わざとはぐらかすような言葉を選んでいた俺に、真っ向から向かい合ってきた彼。
尊大で我侭だが、決して嘘や偽りはない。
ただただ素直な人間。
「……蓬生?」
「俺、留年するわ」
子供にとって多くの生活の時間を占める学校。
千秋と一緒だったらどれだけ面白いだろうか。
今までも何度か考えたことがあったが、それが現実になろうとしている。
それを逃す手があるだろうか。
「いいの?」
親の真剣な眼差しに、首を縦に振る。
しばらく部屋に重い空気が流れたが、しばらくして母親は俺の真剣な決意に頷いて頭を撫でた。
※ ※ ※
「俺は一回も自分の選んだ選択を後悔した事はないよ?」
むしろ、何度良かったと思ったことか。
「一人で空回っていた俺はどうなんだ」
千秋は恥ずかしそうに拗ねながら文句を零す。
幼い頃の真剣さは大人になると恥ずかしいことが多い。
でも、それだけ彼の気持ちは大きかったということだ。
そう考えると自分までこそばゆくなってくる。
「千秋のそういうところ好きよ?」
「やめろ」
言えば言うほど彼は赤くなる。
本当に思っているのに、彼にとってはいじめと同等にしか思えないのだろう。
「何がおかしい」
笑いを堪えているとさらに拗ねた声がする。
さすがにこれ以上機嫌をこじらせるといけないと思い、彼の顎を取る。
目を閉じてキスをする。
「ありがとお」
こんな自分のために真剣になってくれて。
来年には別々の道を歩いてしまうだろうけど、今まで一緒に居てくれて。
「……アホ」
まだ早いだろ、と。
千秋の言葉に思わず口元が緩んだ。
「せやな」
まだ、一年はあるんだ。
散ってゆく桜を見て、来年のことを想う。
想って、胸にしまう。
この花びらが散り、夏が来て。そしてあっという間に一年は過ぎていくのだろう。
その頃の俺らはどうなるのだろうか。
「なあ蓬生、あの頃の俺が考えていたように、もし俺の望みが全て叶ってしまうというなら」
見えない未来を夢想していれば、千秋が口を開いた。
「お前は一生俺の傍にいることになる」
それでもいいか?と言いながらさっき俺がやったように、千秋が俺の顎を指でクイと上げる。
「ゆくゆくは三食昼寝つきにしてくれるんか?」
ふざけて言った俺の言葉に千秋はまた「アホ」と答えてキスをした。
「いっそ三職睡眠抜きにしてやろうか?」
「それは千秋が寝かせてくれないって意味でええの?」
俺の言葉に千秋のツッコミが入る。
冗談でごまかしてしまったけれど、そんな未来も悪くない。
そう思った。
※ ※ ※
「これからは一緒やから」
自分の選択は、正しかったのか分からない。
けれど、彼と一緒にいれることを嬉しいと思った。
これからはずっと一緒にいられるんだ。
肩にもたれかかる彼を抱きしめ耳元で囁く。
彼に対してではなく、自分で幸せを実感をするために。
「千秋、ずっとずっと一緒な」
―了―
- 作品名
- 思い出4
- 登録日時
- 2010/04/12(月) 23:03
- 分類
- 未分類