時計を確認してからやかんの火を消した。
そしてポットにお湯を入れて砂時計を逆さにする。
この時間がとても好きだった。
あと少しで落ちきるというところで、足音がする。
「おはようございます」
食堂に明るい声が響く。
「おはようございます、小日向さん」
俺が彼女に挨拶をするタイミングで砂は完全に下に落ちる。
部長が気に入っているティーカップに先ほど淹れた紅茶を注ぐ。
だが、その前にもうひとつだけ作業がある。
「どうぞ」
彼女の前に差し出せば、嬉しそうな笑顔が咲く。
部長はずっと華がないと言っていたけど、演奏をしていなくてもこんなに華やかなじゃないか。
地味、というのは否めないが。
「芹沢さんは飲まないんですか?」
そう言って、彼女はテーブルの上においてあるポットとカップに視線を移す。
これこそが先ほどのもうひとつの作業であり
「今、蒸らしてますから」
その横に置いてある砂時計が悪魔のカウントダウンとしか思えない。
「いつも自分で用意するんですね……絶対に今度は私に淹れさせて下さいね」
少しだけむくれたり、笑いかけたり、楽しそうにしたり。
くるくる変わる表情は見ていて飽きることがない。
むしろ、下手な派手さがないからこそいいのだろうと思う。
誰のことを指しているとは言わないが。
いや、決してそれがいけないとも言っていないが。
誰に言うわけでもない言い訳を自分の中で繰り返していると、残りの砂は少なくなっていて
「是非。楽しみにしています」
自分の言葉が終わるか終わらないかの頃に嫌というほど聞きなれた足音が響く。
「おはようございます、部長」
「ああ、おはよう」
そして俺様なこの人は俺が遠慮して座らなかった彼女の隣に平然と陣取る。
はぁ、と小さなため息をついて、先ほどのポットを手にする。
そしてきっと今日の彼の気分に合うであろうお茶を注ぐのだった。
- 作品名
- 砂時計(芹沢×かなで)
- 登録日時
- 2010/04/03(土) 21:23
- 分類
- NL